人とのめぐり合いが地域をつなぐ

 

 

SUR #005
芸花さん

東京都板橋区の本蓮沼駅からアスリート通りを進むと、カフェ併設のコインランドリー「Laundry & coffeeひとやすみ」があります。オーナーの芸花さんは、忙しい毎日の中に“ひとやすみ”を届け、あたたかい街づくりとつながりを創造しています。多国籍な環境で育ったからこその人を大切にする力を知っているかのよう。「このままでいいのかな?」から始まったというスタートアップに耳を傾けてみました。

 

将来の自分が見えなくなって――

かつてはいろんな業界で働き、海外出張にもよく行きました。

とにかくがむしゃらで、人に恵まれました。その反面、誰にも相談できずに目標を失って心のバランスを壊したこともありましたね。自分に申し訳なさすぎて思い切って立ち止まり、またすぐ次の人生を進んできました。わたしにも「ひとやすみ」が必要な時がありました。

 

 

商社で仕事をしていた時は自分に甘えたくない一心で、体力を消耗しながらも生き生き働いていました。でも、ふと40代50代もこのまま働いているのだろうかと、急に自分が見えなくなってしまいました。

どうして女性の先輩がいないんだろう、

このままどんなポジションで仕事ができるんだろう、

周りには男性しかいなくて、

どうしてなんだろうってなりました。

体力やホルモンバランス、生活スタイルの違いでできることできないことがある現実の壁に当たりました。

他の部署には女性も働きやすい部署がありましたが、そこで甘えたくない自分もいました。

 

ランドリーとの出会い、

この先をどうやって生きるべきか――

この会社でずっと働いていてもいいのかな。

どうやって生きるべきかを考えた時、仕事プラス何かを探し求めました。

とりあえず動いてみよう、やらないよりもやってからの失敗が好きなのでとにかく行動してみたんです。ジャンルを問わず毎週いろんなセミナーやイベントに出かけました。でも、聞けば聞くほど迷子になっている自分がいました。

 

 

そんな時に見つけたのがランドリーでした。

ちょうど、コインランドリーのポジションが将来コンビニと同じになる、なくては生きていけないものになるだろうと言われていると知りました。

「これまでと違う価値が生まれそう!」

ランドリーの可能性を感じたことがきっかけでした。生活の役に立つことを考えたくて早速“ランドリー+何か” を探して動きはじめていましたね。当初は副業で考えていたはずが、気がつけばやるなら好きなことをとことんやってみたいと思うようになっていました。

お盆休みに何もせずじっくり自分に向き合ったら、休み明けには退職を申し出ていました。それからは、ずっと膨らませていた妄想やこだわり、描いた理想を形にするために時間を注ぎましたね。コーヒーが好きなので脳裏の片隅にあったカフェへの夢をランドリーと一緒に実現してみることに。それが“ランドリー+カフェ”でした。

 

明かりを灯すことが明日につながる――

当初は12月オープン予定でしたが、内装やデザインにこだわっていたら新しい年になっていました。限られたスペースですが無機質にならないように開放感を大切にしました。温かみがでるようにライトにもこだわり抜きました。そして、「Laundry & coffeeひとやすみ」は2020年2月16日にオープンしました。コロナ禍のオープンでしたが、人々の生活が変わる戸惑いとともに今日まで毎日成長してきたと思っています。

 

 

お店は24時で閉店ですが、25:30まで電気を灯してるんです。このアスリート通りが元気でいて欲しいんです。たとえば、女性が残業で遅くなったとしても安心して帰れるように、次の明かりまで頑張ろうと思ってもらえるような灯る場所を提供したくて終電に合わせようと考えました。ちょっとだけ明かりがあることが生きることにつながるように。

声にはならないけれど、明かりを届けることで街づくりにもなると考えています。商店街が活性化するために何ができるのか。

電気がついているだけ、ひとつシャッターが開くだけで変わるし、みんな見てるものなんですよね。

 

「ひとやすみ」に込めた想い――

店名はいろいろ考えましたが一番大切にしたことは親しみやすさです。小さい子どもでも読めるように、高齢の方にも覚えやすいようにしたいと選びました。

実際に、週末に子どもがお母さんを連れてやってきてくれることもあるんですよ。洗濯は生活の一部です。時に面倒な家事もここに来てもらうことが“ひとやすみ”になり、ホッとできる空間になればいいなと思っています。

 

 

毎日、新しい時代のランドリーの姿を目の当たりにしています。

在宅勤務中の人がドリンクを買っていく

通院前に立ち寄って近況を報告してくれる人

親子でちょっとひとやすみ

「ひとやすみ」があるから洗濯機を売って収納スペースを増やしました、と言う人まで。雨の日でも傘をさして来てくれるんですよ。

洗濯機のない暮らしを選べるようになり、生活の質が高まっていることを知って衝撃を受けました。嬉しくて忘れられないできごとでしたね。

ライフスタイルを変えることが求められる中、心の変化もあるはずです。距離が必要な暮らしだけれど人との安らぎの場所、話ができる場所を作りたかったんです。

 

 

Laundry & coffeeの未来――

地域にやさしいちょっと「ひとやすみ」を支えたい。

生活が変わり、感情が変わり、心の変化のある中のオープンでは安らぎの場所であること、話のできる場所になれたことが価値ですね。大きな変化にひとりひとりが順応している中、ホッとしている姿を見て、わたしは生きる力をもらっています。そしてコロナと一緒に歩んでいます。

“洗濯”は日常の一つの行為ですが、今後は新しい“ランドリー+何か”をどんどん増やしてみたいですね。

実は今、コワーキングスペースの準備を進めているんです。洗濯をしながら仕事もできる、日常と仕事が同時に進行するような重なる時間を提供してみたいです。

小さくてもそこにあるだけで変化が生まれるならば、人の役に立つことをどんどんやってみたいんです。たとえプラスマイナスゼロだとしても新しいことが生まれるのなら、地域が変わっていくんじゃないかな。

 

 

洗濯機を回している間に”雲コーヒー”でひとやすみ、ホッとできる空間があることの喜び。毎日がいい思い出になるように小さなスペシャルを届けたいです。

 

人とのめぐり合いが地域をつなぐ――

会社員時代はそのコミュニティでしか付き合いができなくて、それが普通で何の疑問も抱かず毎日を送っていました。でも、考えが狭くなってしまっていること、考える力がなくなってきていることに気づきはじめました。

今はコミュニティが広がって、とにかく出会いが多いです。会社員だったら一生出会えなかった人にもたくさん出会えて、以前には想像もできなかった毎日を過ごしていることが楽しくて仕方がありません。

会う人みんな生き生きしているし、きらきらしているのを見てわたしも頑張れる。人とどんどん繋がって毎日がいい思い出と発見にあふれています。

 

 

20代に思い描いていた頃よりもっと、今の自分が好きなんです。自分の価値が分かる、人生に対して生きている実感がある。働くことは心が豊かになる時間ですよね。自分に申し訳なくないように生きている自分でいるために。自分を失くさずにお店のためにできること地域のためにできることを考えればきっと、未来にもつながっていくのでしょうね。

 

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行ってらっしゃい。頑張ってください。

人とのつながりとひと言を添えることがこんなにも人を励ましているんだと心強く思いました。まるで雲コーヒーの雲ように膨らむ想いが必ず叶いそうな力を見た気がします。梅雨の晴れ間の“ひとやすみ”に。

 

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協力/Geika 

Laundry&coffeeひとやすみ @pause_it_216

聞き手・撮影/Chikayo Kono Modrušan

@croacica