大地を信じる力との出会い

 

SUR #004
相馬佐穂さん

もえファーム代表の相馬さんは埼玉県久喜市で農業を営んでいます。看護師としても勤務しながら年間100種類以上の野菜を育て、五感を大切に本質に向き合う心地よさを伝えようとしています。食べ手と丁寧にコミュニケーションを紡ぐ相馬さんの願いと想い。就農4年目の春に、キクイモ畑から広がる未来について聞いてみました。

 

大地を信じる力との出会いー

自然栽培をはじめたのは、子どもから高齢者までどんな人でも野菜が育てられ、農業に従事できることを知ったからです。除草をせず限りなく自然に近い状態での栽培にたくさんの可能性を見出しました。自然の力を大切に地球に優しい農業がある。種の時から違う種類を一緒に蒔くと野菜同士がお互いに支え合い、助け合う先に調和がある。野菜の一生を見届けながら、障がい者支援や身近な家族の将来のためにも環境を整えたいと思ったことがきっかけです。

わたしは地域を知らずに生活していたのに、いつの間にか娘の方が知っていて娘のことを知ってくれている存在を知った時、地域に守られている、育まれていたことに感謝の気持ちが自然と溢れました。

 

 

土地が育んでいるものは何かと探してみたら、偶然「キクイモ」との出会いがあったんです。調べるといろんな名前があって、面白い形で栄養価も高い、そのポテンシャルに惹かれましたね。

たくさんの野菜を育てていますが、「キクイモ」はわたしにとってずっと特別な存在です。

 

畑は森の再生と同じ。そこに戻してあげたいー

自然が自然に戻る。それが畑にも心にも栄養を巡らせることになっているんだと思います。枯れ草や雑草さえも丁寧に覆ってあげると自然素材のマルチが成立する。自然の力が保温と保湿になっているって素晴らしいですよね?まだ理想の形を追い求めているところですが、だんだん自分が理想とする栽培法に近づけるようになりました。

実はこの畑の一部は土の状態があまり良くなかったんです。試行錯誤を繰り返しながらとても苦労したんですよね。でも、土と向き合っていく中で大地を信じることを知りました。それは自分を信じること。信じ抜く過程で大切なものの視点が変わったんです。

 

 

風の音、月の満ち欠け、空の色、雲の形や鳥の声。

野菜を育てながら視野に入る世界に魅了され、満たされるようになりました。以前は夕日が綺麗なことも流れる雲がこんなにも芸術的だとは知りませんでした。森が森であるように畑は畑であればいい。それを大きな感謝として大地に戻してあげたい。自然栽培の醍醐味を感じているところです。

かつては競争社会に生きていました。とにかく情報に気をとられていましたね。同じ世界に生きていたはずなのに大切にしているものが今とまるで違いました。表よりも中身を見る、どうして?なぜ?を丁寧に手繰り寄せ、気持ちにほんの少し余裕が生まれたとき、平和で穏やかな自分に出会うことができました。過酷な現実に出会っても「気づかせてくれてありがとう」と心から言えるようになりました。

 

 

いろんなものを作り、ひとつひとつ丁寧に向き合う。野菜を育てる中で大地とともに自分の“色”を創る。喜べているのか、そこに感動はあるのか。自分のトキメキにもとことん向かって努力を惜しまない。「自分を売る」ことの意味、すべては“わたし”に興味を抱いてもらうためのプロセスでした。

 

心の揺れ動きに敏感になるー

この一年でコミュニケーションに大きな変化が生まれましたよね。逆に、人と人が深く関わることで魅力的な仕事の形もあると気づいたんです。ひとりの心の揺れ動きにも敏感になる、そうすることが実は自分の心の動きを敏感に感じようとしていたのかもしれません。「自分」そして「わたし」を感じるためにいろんな考え方に触れるようにしています。その偶然も信じようとしています。

畑ではたったひとりなのに孤独じゃないんです。凛としていられるというか自然が応えてくれて、寄り添ってくれている。美味しいその先を一緒に味わいたいと思ってくれる人たちがいる。だから気持ちを重ねる“共同作業”だと思っています。

 

 

師を超える存在の偉大さに触れてー

偶然の引き寄せで出会った恩師は厳しくもわたしを引き出してくれる、奮い立たせてくれる人です。ある日のマルシェで言われたんです。

「普通のカブだね、もっと美味しいカブがあるはず。」

気持ちの問題、想いが雑になっていたんです。思い入れが足りなくて、ひとつひとつに丁寧に向き合えていなかったんです。作業になりかけていたところで立ち止まることができました。

野菜を届ける時、その表現ややり方には数字だけで説明しきれない何かがあります。でも全て説明できる根拠があるんですよね。そこには思いやりや五感に響かせるような何かが潜んでいることも知りました。どこにどこまで心を込めればいいのか、看板も袋も紐さえもその後ろにある想いを受け取ってくれる人が必ずいる。

「師はつくらず、師にもならない」。自分を信じることです。離れていても愛情を込めて支えてくれる人がいる。多くは語らずとも本質を伝えようと温かい眼差しがある。いつも背中を追っていますが師ではなく、もっともっと別次元で追いかけたい人ですね。

 

成長の後ろにあるのは「追い込む心地よさ」ー

大地も野菜も人も「個としての心の揺れ動き」がある。五感を研ぎ澄ませ、僅かな心の揺れ動きを感じられること。感動を掘り下げることができる今、幸せでなりません。

デスクワークをしていたときには夕日が綺麗だとか、あったはずの世界が何にも見えてなかったですから。繊細な葉についた朝露の美しさや、乾いた土の下に潤いがある感動も知りましたね。

 

 

今、体力的には厳しいはずなのに通勤時間に2時間以上かけて夜勤もしています。以前はもう少し近い場所で勤務していたんですが、時の流れとともに場所ではなく人とのご縁を選んでいたら今の場所になったんですよね、不思議なものです。根性が勝ったのかもしれませんが距離や時間よりもご縁が選ばれていたんです。

ものごとの真の魅力はどこにあるのか。求めている人がいる限り命のあり方を知って、種をつなぐことに集中したいなと思っています。不自然のない「安全」や「温かさ」。本物の「味」への興味、偶然を信じる「力」、本来の姿から離れないことを毎日感じていたい。今はこうあるべき、しなくてはならない、制限されていることがあまりにも多いんですよね。人間のエゴで少しバランスが崩れていることを本来の姿に戻してあげるだけでいいんです。戻すこと、原点回帰、どれも必要でどれも尊重しています。

のびのび、ありのまま、わたしの色。そこに経験や想いが育まれていく。自分が心の底から動き、ときめくことを大切にしています。そのためには自分に正直でいること。そして、きっと同じように想う人が必ずどこかにいるという期待。土に触れながらベストな自分をいつも探っています。素直に“ホンモノ”の気持ちが出せるならばそれは“スーパーベスト”ですよね。

 

 

種にこだわる、はじまりはいつも種ー

出来るだけ、伝統の固定種・在来種をつないでいきたいと思っています。美味しい野菜をたくさん作ることは大切ですが、そこに感動や想いが重なっていて欲しいんです。野菜たちは毎日どんな状況でも精一杯生きています。過酷でたとえ折れてしまっても諦めたりせず、脇芽を伸ばして健気に花を咲かせてくれます。信じることの当たり前を知りました。

 

 

収穫しきれなかった作物から自然に種が落ちて、気づかないうちに芽が出ている。畑にはいろんな力が混ざっていますよね、

わたしには受け継ぐ役目がある。将来は、ここからはじまった種を受け継いでくれる人も探したいと思っています。

 

直感人生を生きると決めてー

日々の流れの中、ざわざわした時や疲れているのに無理をしている時は空回りするから気づかせてくれます。どんなに忙しくても止まれるひとつのシグナルです。

最後に決めるのは自分、そう思って決めたならそれでいいんです。なるようになる。なるようにしかならないし、難しく心配してもしょうがない。そう考えるようになって暮らしを楽しめるようになりました。力を抜く、生きていれば何とかなる。失敗しても楽しいこと、うまくいっているか分からないけれどみんなで楽しくなれることで共感したい。人生をかけて体験し続けたいんです。

直感で選んでいる「直感人生」ですね。

 

 

娘の笑顔に助けられながら土に触れることで深い対話をし、ひとりの人間として自立するための力が鍛えられました。強さを身につけて信じてあげること、大地にも野菜にも自分にも。「もえファーム」は娘の名前から付けました。畑と同じように逞しく愛おしい大人になってくれました。

もし、畑をやってみたいという人がいたなら「いろんなやり方があるからやってみたら」と、選択肢はたくさんあることを伝えたいですね。はじまりの種を大切にすればきっと、思っている以上に育つものです。

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春風に吹かれた横顔から凛とした強さが伝わってきました。枯れ枝の下にも潤った土が潜んでいること、見えるものと見えないものの境目を掘り下げたからこそ出会う世界。これまで見えていたことの価値がゆらぎ、見えないものをしっかり見つめていきたいと思いました。大地から受け取ったもの、大地に吸収してもらったもの、わたしがさらにわたしらしくなるために。

 

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協力/Saho Souma(合同会社もえファーム)

@moe_farm

聞き手・撮影/Chikayo Kono Modrušan

@croacica