[コラム]うるう年のよろこび、余白の大切な世界

 

『渡り鳥』 岩谷香穂(さりげなく)

同級生に2月29日生まれの友人がいました。閏年であってもなくても2月のカレンダーを見ると、一緒に遊んだ懐かしい日々を思い出します。

閏年にだけ現れる本―

閏年終了後には本屋から去ることを宣言している少し不思議で魅力的な一冊の本に出会いました。

日本文学を学んでいたわたしには懐かしい布貼りの製本と風合い溢れる空押しです。中身の秘密を何も知らず、届いた本に驚きました。体験したことのない感情を抱きつつもここに込められた想いに少しずつ理解が進みました。

それは、旅することが許されないステイホームで束の間の旅を疑似体験し、文字を追いながら理解する“読み物”から自分の中の言葉を追い求める“旅”に出かけられるかのようでした。たったの数ページの文字に込められた意味と重みを感じます。

最初、わたしはこの白紙に自分の大切な言葉を書いてみよう思ったのですが留まりました。ここに書きたいけれど書かない言葉を大切にすることが、人生ではもっと大切になるのだろうと。文字にしない言葉の出会いを信じることにしてみました。

「見えるものと見えないもの」へ心から共感するとともに、この世の中でも見えないものは何にも変わっていないということ。見えるものに驚かされていると、見えないものに決して気づくことはできないことを教えてくれているようでした。

自分の種のありかを見つめなおすことは文字にできる世界でありながら、もしかすると見えない世界で表現されることなのかもしれません。深みや奥行きに迫ることに今、たっぷり情熱を注いでみたいと思っています。

『渡り鳥』が象徴するような触れることで感じる、喜びの世界と風合いをここスタートアップルームでも表現したいなと試みています。

 

https://www.sarigenaku.net

文・撮影/Chikayo Kono Modrušan

@croacica