幸田 文(新潮文庫)

時々この表紙の緑が恋しくなり、読んでしまう本です。

木々の緑から受ける癒しを欲しているときだけでなく、幸田文さんの美しい日本語に癒されます。文字から運ばれる自然の情報に反応して自分の中の滞っているものが、少しずつですが動き出すのが分かります。

五感を澄まして仕事に触れることが新しい発見となります。強風の今日に揺れる葉は、仕事のザワザワと同じようにいるけれどきっと冬の何かを持っていって、新しい春を運んでくれるものです。

 

 ──それは心のよごれを洗われることであり、心中に新しい養分を補給されることだった。だから私は樹木へも林へも、良薬にして美味、といったような思いをもっていた。

 

詰まっている仕事の諸々が剥がれるように、この一冊からまるで森林浴ができるのもこの本のよいところです。良薬をもって春を迎える、この緑の表紙に導かれるように。